酒類製造免許の取得を行政書士が徹底解説

クラフトビールとクラフトサケ製造への第一歩
はじめに
酒類の製造には、国税庁が発行する「酒類製造免許」が不可欠です。本記事では、行政書士の視点から、免許の種類、取得プロセス、必要書類、費用などを詳しく解説します。
特に、クラフトビールとクラフトサケに焦点を当て、小規模生産で個性を追求する酒造の可能性を探ります。
- クラフトビール:「ビール製造免許」
- クラフトサケ:「その他醸造酒製造免許」
これらは近年注目されている分野です。
また、成功事例として秋田の「稲とアガベ」、宮城の「グレイトデーン」を紹介し、行政書士がどのように申請をサポートできるかを具体的に説明します。これから酒造業を始める方にとって、実践的なガイドとなるようまとめました。
酒類製造免許とは?
酒類製造免許の種類
酒類製造免許には、以下のような種類があります。
| 酒類の種類 | 免許の名称 | 代表的な製品 | 最低製造量 |
|---|---|---|---|
| 清酒(日本酒) | 清酒製造免許 | 純米酒、本醸造酒 | 年間60kL |
| 果実酒 | 果実酒製造免許 | ワイン、シードル | 年間6kL |
| 蒸留酒 | 蒸留酒製造免許 | 焼酎、ウイスキー | 年間6kL |
| ビール | ビール製造免許 | クラフトビール、大手ビール | 年間6kL(地ビール) |
| 発泡酒 | 発泡酒製造免許 | 麦芽比率の低いビール風飲料 | 年間6kL |
| その他醸造酒 | その他醸造酒製造免許 | ミード、どぶろく | 年間6kL |
| リキュール | リキュール製造免許 | 梅酒、カルーア | 年間6kL |
酒類製造免許の必要性
- 酒税の確保:酒税は国の重要な財源で、2023年度の税収は約1.2兆円(国税庁発表)。
- 品質管理と消費者保護:安全な酒類の供給を確保するため、免許制度が設けられている。
- 法的義務:酒税法第7条に基づき、製造免許の取得が義務付けられている。違反すると厳しい罰則が適用される。
取得難易度と行政書士の役割
酒類製造免許の取得は、一般的な営業許可よりもハードルが高いです。主な要件は以下の通りです。
取得要件
- 最低製造数量:
- ビール:年間 6kL 以上
- 清酒:年間 60kL 以上
- 設備投資:クラフトビール・クラフトサケで 500万円~数千万円 必要
- 審査期間:書類審査と現地確認を経て、 6ヶ月~1年以上 かかる
行政書士の役割
- 事業計画書の作成
- 税務署との事前相談の調整
- 書類不備のチェック
などをサポートし、申請者の負担を軽減します。
特に、最低製造量を満たす販売計画の策定 は審査通過のカギとなるため、行政書士の支援が有効です。
クラフトビールとクラフトサケの定義
クラフトビールとは
クラフトビールは、小規模生産で独自の風味を追求したビールです。日本に法的定義はありませんが、一般的には以下のように大手ビールと異なります。
| 大手ビール | クラフトビール | |
|---|---|---|
| 生産規模 | 大量生産 | 小規模(6kL~数百kL) |
| 原料 | 麦芽・ホップ中心 | フルーツやスパイスも使用 |
| 免許 | ビール製造免許 | ビール製造免許 |
酒税法上のビールの定義
- 麦芽比率 25%以上
- アルコール度数 20度未満
2020年の酒税法改正で 最低製造量が2,000kLから6kL に引き下げられ、新規参入しやすくなりました。
クラフトサケとは
クラフトサケは、小規模生産で独自の製法を取り入れた日本酒風の醸造酒です。
| 伝統的な日本酒 | クラフトサケ | |
|---|---|---|
| 原料 | 米、米麹、水 | 米+果実、スパイス等 |
| 発酵期間 | 1~2ヶ月 | 短期間発酵が可能 |
| 免許 | 清酒製造免許(60kL) | その他醸造酒免許(6kL) |
クラフトサケは「その他醸造酒製造免許」で対応でき、清酒より 参入障壁が低い のが特徴です。
製造方法の概要
クラフトビールの製造方法
クラフトビールの基本的な製造プロセスは以下の通りです。
- 原料選定:麦芽、ホップ、水をベースに、フルーツやスパイスを加えることも。
- 糖化・煮沸:麦芽を砕いて糖化し、麦汁を作り、ホップで煮沸して風味を調整。
- 発酵・熟成:ビール酵母を投入し、1~2週間発酵させ、数週間熟成。
クラフトサケの製造方法
クラフトサケの製造は自由度が高いです。
- 原料選定:米に果実やスパイスを組み合わせ。
- 発酵:清酒酵母やワイン酵母を使用し、数日から数週間発酵。
- 熟成・瓶詰め:短期間で仕上げることも可能。
免許取得の流れと必要書類
申請の流れ
酒類製造免許の取得プロセスは以下の6ステップです。
事前相談(税務署)
事業計画書作成
書類準備
申請書提出
審査(書類審査・現地確認)
免許交付
酒類製造免許の取得に係る実費
酒類製造免許の取得には、国税庁(税務署)への申請に伴う手数料や、製造開始に必要な設備投資、書類準備のための諸費用が発生します。以下に、クラフトビール(ビール製造免許)とクラフトサケ(その他醸造酒製造免許)を例に、実費の内訳を解説します。
申請手数料
酒類製造免許の申請自体には、登録免許税が必要です。これは酒税法に基づく法定手数料で、免許の種類に関わらず一律です。
- 金額: 30,000円
- 根拠: 酒税法第12条および登録免許税法により、新規製造免許の申請1件につき30,000円が課されます。
- 支払い方法: 申請書提出時に収入印紙を貼付するか、現金で納付。
- 補足: 更新や追加免許が不要なため、基本的には初回のみの費用です。
設備投資費用
酒類製造免許を取得するには、最低製造数量(クラフトビール6kL、クラフトサケ6kL)を満たす設備が必要です。設備投資は実費の中でも最も大きな割合を占め、規模や品質によって幅があります。
クラフトビール(ビール製造免許)
- 最低限の設備構成:
- 醸造タンク(200L程度×数台): 約200万円~300万円
- 発酵槽(6kL対応): 約100万円~150万円
- ボトリング機(手動~簡易自動): 約50万円~100万円
- その他(冷却装置、配管、衛生器具): 約50万円~100万円
- 総額目安: 500万円~800万円
- 補足: 小規模(6kL)で最低限の生産を目指す場合。この金額で年間6kL(6,000リットル)のビールを製造可能です。
クラフトサケ(その他醸造酒製造免許)
- 最低限の設備構成:
- 発酵タンク(200L程度×数台): 約150万円~250万円
- 攪拌機・加熱装置: 約50万円~100万円
- 瓶詰めライン(手動~簡易自動): 約50万円~100万円
- その他(濾過装置、衛生器具): 約50万円~80万円
- 総額目安: 400万円~700万円
- 補足: クラフトサケはビールより煮沸工程が少ない分、設備コストが若干抑えられます。
書類準備に伴う実費
申請には事業計画書や設備図面、財務証明書類などが必要で、これらの準備にも実費が発生します。
- 事業計画書の作成費用:
- 自己作成の場合: ほぼ0円(時間コストを除く)
- 専門家(コンサル等)に一部依頼: 10万円~50万円
- 設備図面の作成:
- 自分で作成: 0円~数千円(ソフト代や印刷費)
- 業者依頼(建築士や設計事務所): 5万円~20万円
- 財務状況の証明書類:
- 預金残高証明書: 1通あたり約500円~1,000円(銀行手数料)
- 融資証明書: 無料~数千円(金融機関による)
- 総額目安: 数千円~30万円
その他の実費
- 試作用原料費:
- クラフトビール: 1バッチ(50L)で約2万円~5万円(麦芽、ホップ等)
- クラフトサケ: 1バッチ(50L)で約1万円~3万円(米、酵母等)
- 施設賃貸料:
- 小規模工場(50㎡程度): 月額5万円~20万円(地域による)
- 申請~免許交付までの6ヶ月分: 30万円~120万円
- 水道・電気工事費: 50万円~100万円(配管や電源増強)
総額の実費目安
| 申請手数料 | 30,000円 |
|---|---|
| 設備投資 | 500万円~800万円 |
| 書類準備 | 数千円~30万円 |
| その他 | 50万円~150万円 |
| 合計 | 約580万円~1,000万円 |
行政書士報酬(参考)
行政書士に依頼する場合の費用は実費に含まれませんが、参考として記載します。
- 申請書類作成: 30万円~100万円
- 事前相談支援: 5,000円~(税務署への相談は無料)
- 総額: 30万円~120万円程度
行政書士を活用すると、実費の一部(書類作成費)を代替しつつ、審査通過率を高められます。
成功事例例
秋田の「稲とアガベ」
秋田県の「稲とアガベ」は、米とアガベ(テキーラの原料)を組み合わせたクラフトサケで知られています。「その他醸造酒製造免許」を取得し、6kLの小規模生産からスタート。地元の米と独自の発酵技術を活かし、国内外で注目を集めています。現在は欧米への輸出も視野に入れ、成長を続けています。
宮城の「グレイトデーン」
宮城県の「グレイトデーン」は、クラフトビールで地域ブランドを確立しました。「ビール製造免許」を取得し、地元の水とホップを使ったIPAやスタウトを生産。ビアフェスや地元イベントで試飲提供を行い、認知度を上げています。県外の飲食店への卸売りも拡大中です。
神奈川の「サンクトガーレン」
神奈川県厚木市の「サンクトガーレン」は、日本を代表するクラフトビールメーカーです。「ビール製造免許」を取得し、6kL以上の生産能力を確保。パイナップルやチョコレートを使ったユニークなビールで知られ、季節限定商品が人気です。地域イベントやオンライン販売で市場を広げています。
東京の「WAKAZE」
東京都の「WAKAZE」は、クラフトサケの革新者として注目されています。「その他醸造酒製造免許」を取得し、米にハーブや果実を加えた新しいスタイルのサケを生産。6kLの小規模生産から始め、海外展開にも成功。特にフランスでの人気が高く、国産クラフトサケの可能性を示しています。
これらの事例は、地域資源と独自性を活かした成功モデルです。
クラフトビール・クラフトサケ製造の成功Tips
地域性を活かす
地元の特産品(例: 秋田の米、宮城のホップ)を使うと、独自性が際立ちます。事業計画書に地域連携を明記すると、審査で好印象を与えやすいです。
小ロットで実験
最低製造量6kLを満たしつつ、小ロットで試作を重ね、市場ニーズを確認。販売実績を積むことで、事業の継続性が証明されます。
イベント出店
ビアフェスや地元イベントで試飲を提供し、認知度を向上。販売計画にイベント実績を反映させると、審査での説得力が増します。
まとめ
酒類製造免許の取得は、クラフトビール。クラフトサケで約580万円~1,000万円が目安です。申請手数料の30,000円は少額ですが、設備投資が大部分を占めます。行政書士としてアドバイスするなら、初期投資を抑えつつ審査基準を満たすバランスが重要です。
- コスト削減の工夫:中古設備の活用や行政書士による効率的な申請準備
- 市場調査の重要性:販売計画の具体性が免許審査の評価ポイント
- 長期的な視点:初期投資は大きいが、安定した販売ルートを確保すれば高収益も可能
酒類製造は大きな可能性を秘めた事業ですが、慎重な準備と戦略的な投資が成功の鍵となります。免許取得を検討している方は、ぜひ専門家のアドバイスを活用しながら、スムーズな事業立ち上げを目指しましょう。

コメント